ユーラシアンオペラ2022

■「A Night The Sky was Full of Crazy Stars」11月/埼玉東京公演プログラム

■ コンサート「ユーラシアン・ボイス 南ロシアの風 feat. Anna Pinguina(11月5日プログラム


題字は「クルド日本語教室」の子どもたちが書いてくれました(制作 三行英登)
題字は「クルド日本語教室」の子どもたちが書いてくれました(制作 三行英登)

 音楽詩劇研究所 

A Night The Sky was Full of Crazy Stars

作曲・演出:河崎純

埼玉(東京)公演プログラム ・記録写真

 2022年11月@アプリュス芝スタジオ@SHIBAURA HOUSE 

 

 本日は音楽詩劇研究所ユーラシアンオペラ2022にご来場ありがとうございます。多言語が響き合う本作は演出上、曲の解説や、字幕などがございません。意味にとらわれずにそれらの音や空間をお客様に味わっていただきたい、と考えたからです。埼玉県の川口、蕨市は、中国、クルド 、ベトナム、ネパール,,,海外からの移民や留学生が多く、まさに多言語が響き合う街。共生の難しさだけでなく、その可能性の源泉を、多様な響きの豊かさに求めたい、そんな思いから創作しました。作品名は、クルド人の作家、ドイツ在住の小説家バフチャール・アリの詩のタイトルです。

 

上演作品の<前半>は、架空の「広場」で行われるコンサート。韓国の口承芸能、韓国のロミオとジュリエットともいわれるラブストーリー、パンソリ「春香伝」が演じられる。休憩を挟んだ<後半>は日本、ロシアをはじめ世界の様々な詩をコラージュするように構成します。来日することが難しかった、ウクライナ、ロシアの歌手たちも録音で声を届けてくれました。誰もが集える場、そこを自由に通り抜けることができる通路。そんな空間を思い描きながら、音や踊り、映像で夜の「広場」を創生してみます。

 

「その歌は私たちだけのものではない」

 

そこは、宮沢賢治の「ポラーノの広場」も想起させる。  野原のまん中の祭りの場所。 「そこへ夜行って歌へば、またそこで風を吸へばもう元気がつく」とか、 オーケストラがあって「誰(たれ)でも上手に歌へるやうになる」と言われた。

 

皆様の帰り道、今夜その上空に星々が瞬いているかはわかりません。しかし、その空の奥のほうで、輝く星たちの息吹がきっと聴こえる。広場や空は誰のものでもない。星々は、地上に生きる私たちすべてのこと。この街が、日本が、世界がその広場でありますように。そしてこの世に生ける全ての存在は、夜空を灯ともす地上の星々です。 

 

* 本日の公演にご出演いただいている在日クルド人 女性のグループは、11/25,26に行われる東京公演に主演することができません。トルコより移住されている在日クルド人は日本において難民申請が許可されないため、在住都道府県の外に移動する自由がありません。公演は、映像や音源で記録した彼女たちとの交流や創作の記録交えながら上演されます。在日クルド人の動向は、国籍のあるトルコ政府から監視されることもあります。本人の許可なく、とりわけSNS等で個人が特定できる顔写真、情報はアップロードなさらないようお願いいたします。今後も彼女たちとの創作は続きます。この埼玉県、川口、蕨の土地から、新たな音楽文化の潮流にご期待ください。そしてどうか、安全に、仲良く暮らしてゆけますように。 

河崎純(音楽詩劇研究所)

                  

ソリスト:ジー・ミナ(歌) エリ・リャオ(歌)

演奏:松本ちはや(マリンバ・打楽器)熊坂路得子(アコーディオン) 

   任炅娥(チェロ)小沢あき(ギター)河崎純(コントラバス)

スペシャルゲスト:Denge Jine Japan(歌・ダフ)*埼玉公演のみ

三浦宏予(ダンス) 亞弥(舞踏) 吉松章(舞・謡) 坪井聡志(歌)

  

美術展示:髙田純嗣 映像:三行英登 サウンドデザイン:清水博志 

音楽監督:小沢あき テキスト協力:原牧生 舞台監督:加古貴之 照明:宇野敦子 ステージコーディネート:白澤吉利

 

*記録写真 by mikomex 

前半

0  オープニング

1 2つのデュエット」

 

「私は足下に大地を感じずに生きている」。ロシアの詩人マンデリシュタームの詩「スターリン・エピグラム」のロシア語朗読音声の後、クルド伝承叙事詩一節の録音(Serdar Cana氏)が流れ、そこにアコーディオンとチェロ、コントラバスとエレキギターの二つの「DUO」が混ざり合う。デングベジュといわるクルドの歌唱文化は、ヨーデルのような裏声と地声を行き来し、深いビブラートと激しい歌唱法で自然や愛を歌う。録音の音声は、今夏日本を訪れたクルド音楽の研究者セルダル・ジャーナンによる。

2 台湾原住民(アミ族、プユマ族)の歌

 

台湾には漢民族以外に、アミ族、タイヤル族など多くの山岳などに暮らす先住民族の人々がいる。南方諸島系の人々が島の原住民となる。現在16の少数民族が存在するとされる。日本統治下においては日本語が共通の言語となる場合も多かった。

 

アミ族の歌唱の後に歌われる、「懷念年祭」はプユマ族の音楽の父」といわれる陸森寶(バリワクス/森宝一郎)の遺作。プユマ語で歌われるが、中に日本語が混ざっている。

「家からとても遠い場所で働いていて/父母や家族、友だちのもとにどうしても帰ることができない/だが、永遠に忘れることができないのは/家族たちと過ごした「その昔」/母が私のために編んだ花輪を頭にかざり/華やかに着飾って踊りの輪に加わりたい」

2 ヒカリソラコトバ(日本語)

 

フランスの小説家 J.M.G. ル・クレジオの「地上の見知らぬ少年」に着想を得て作詞作曲。地上にはじめて訪れた言葉を持たない少年の眼に映ったのは、人や人の手で作ったものも含めた自然だけ。その眼差しそのものが詩であり歌。「光・空・言葉」。ユーラシアンオペラ2022総合チラシの、川口市の巨大な芝園団地の写真に重なるそれらの字は、「クルド日本語教室」で学ぶ、在日クルド人の少年、少女が書いてくれた。

ユーラシアンオペラ版「春香伝

 

「春香伝」は娼妓(キーセン)の娘の春香(チュニャン)と両班の息子夢龍(モンニョン)による、身分差を越えた、韓国のロミオとジュリエットともいわれる愛の物語。パンソリが歌い、泣き、笑いながら聞き手とともにつくりあげてきた韓国の民の声を多言語の歌で響かせながら、インターナショナルな現代のフォークロアとして再現する。 

 月夜の船出(韓国語)

 

「船に乗って川に出ると、水には空が映り、空には月がある」

 

韓国の国楽、伝承音楽短詩の時調を歌う古典歌曲、「月正明(ウォルジョンミョン)」がゆっくりと歌われる。現代の物語として脚色したユーラシアンオペラ版では、春香の母、月梅望郷が、台湾の出身でという設定を設けた。

 

2 寄る辺なきものは(日本語)

 

日本の植民地時代、日本人の恋人を追って船を漕いで日本に渡ろうとするが、韓国、済州島に漂着する。原詩は琉球王国の娼婦だった歌人、吉屋チルーによる琉歌。8歳のときに遊郭へ売られていく途中、比謝橋で詠んだ悲歌だといわれる。

 春香誕生(韓国語)

 

年齢的に子供を産むことが不可能な月梅が、山の霊力で春香を授かる。霊気に満ちた山水の情景と赤子の誕生を歌う。

 

4 ブランコに乗って(日本語、韓国語)

 

村祭り。清廉な少女に成長した春香が、広場で風に乗ってブランコを漕ぐ。ジー・ミナが来日後、「ブランコ」にまつわる韓国民謡があると教えてくれた。間奏ではその曲を演奏することになった。

5 空にけあがり(日本語)

 

隠れるように少女を見つめる、官僚の息子、夢龍が恋焦がれて懊悩する。だが春香は身分違いの恋愛は叶うはずがなく、不幸が生まれるだけだと応じない。

6 愛の場面(韓国語)~「苦しみ数えうた」(日本語)

 

エレクトロニクス音楽に、韓国伝統の正歌の歌唱が重なる。 

ようやく求愛に応じた少女と、少年の「初枕」を描くシーン。パンソリでは最も人気のあり、エロティックでコミカルにダイナミックに歌われる場面だが、ここでは李朝時代の娼妓、黃眞伊の詩による、伝統歌曲をゆったりと。

 

「霜月の長々しい夜を 真中より二つに立ちて/あたたかき春のしとねに畳入れ/君の訪ねくる短い夜を 延ばし延ばさめ」

7 月梅望郷(プユマ語)

 

老いた母が故郷の台湾を想い、歌を思い出す。「美麗的稻穗」(「うるわしき稲穂」)。映像は故郷のクルド の村の歌や踊りについて私たちに教えてくれるDenge Jine Japanの三人の姿。

 

「今年は豊作/郷里の稲穂も刈りいれだろうか/豊作の歌声が前線の金馬にいる家族に届きますように/郷里に植えた木は/すでに大木に育っている/この大木で船艦をつくり/兄弟を迎えにいきたい」

8 それは良き夢(韓国語)

 

憔悴し、夢龍との再会の望みをじょじょに失ってゆく春香は悪夢を見る。しかしその悪夢は良き夢の兆候だと、お告げのような声が聴こえた。

 

「花が散れば実を結び、鏡が割れれば驚く耳目をあつめるだろう。門のあらわれた案山子に、さらに民の目集まる。海干上がれば龍あらわれ、山が崩れれば平らになる。」 

9 金の樽の美酒(日本語〜韓国語) 

 

帰ってきた夢龍が詩を吟じる春香伝で最も名高い場面を能の謡いとコントラバスで演じる。

 

「金の樽に入った美酒は、千人の血からできており /玉椀にある美味い魚は、人民の油でできている /ろうそくから蝋が滴るとき、人々の涙も滴り /歌舞の音楽が高く鳴り響くとき、人々の怨嗟の声も高く轟く」

 

別離の苦難を乗り越えた二人は広場で再会を果たして結ばれる。

 

その歌は私たちだけのものではない

 

 

そこは、宮沢賢治のポラーノの広場も想起させる。  野原のまん中の祭りの場所。 「そこへ夜行って歌へば、またそこで風を吸へばもう元気がつく」とか、 オーケストラがあって「誰(たれ)でも上手に歌へるやうになる」と言われた。

 

曲の後半で即興的に歌われる韓国語の歌詞は、日本で非業の死を遂げた尹東柱の有名な詩「星を数える夜」より。

 

星一つに追憶と/星一つに愛と/星一つにわびしさと/星一つに憧れと/星一つに詩と/星一つにオモニ、オモニ」(金時鐘訳)

10夜の広場(クルド語)*埼玉公演のみ

 

夜の広場にあらわれる三人の女。クルド人、とりわけ女性に愛される自立の歌「クルドの娘」が歌われる。

 

「少女たちよ、立ち上がれ、その声を世界に届けよう、私たちと一緒に光へ向かってほしい、私たちの戦いに加わってほしい」

「頭を上げろ クルドの娘たちよ/私の心臓と肺は溶けている/我々の土地はどこだ?我々の自由はどこだ?/われらの孤児の母はどこにいる」

 

<映像>東京公演のみ、在日クルド人女性たちとの、歌や踊りを通じての交流と創作。

 

後半 

Crazy Stars

 

ロシア、クルドの現代詩に、ユーラシアの大地の声が混ざって響きあう夜の広場。

国境なき空を仰いで、見えざる星々の探し、光を訪ねる。

1  石頭歌(アミ族伝承歌)

 

交唄形式による台湾のアミ族の収穫祭の歌

 

2 クルド歌(クルド語*東京公演は録音)〜ワロジャの歌(日本語〜英語)

 

クルドの恋の歌を歌うDenge Jine Japanの歌唱で始まり、クルドの詩人バフチャール・アリの詩の一節が日本語で語られる。 

「ワロジャの歌」

 

架空の民族を演じるユーラシアンオペラの前々作より。原作は北方民族エヴェンキの翻弄された20世紀を神話のように描く、中国の女性作家による小説「アルグン川の右岸」。トナカイとともに暮らす狩猟民族の一族が無文字社会から文字社、遊牧から定住生活へと移行し、シャーマニズム等の伝統や慣習は失われていった。

 

 歌詞は一族が、野営で映画を初体験する場面。中国共産党思想教育的な内容だが、驚き、感動、喜び、戸惑い、その姿を族長ワロジャが一族の未来と自らの来歴を思い描きながら詩に描いた。彼は漢詩も知る教養人で、文字教育を推進し、近代化と伝統的生活の存続の両立を願ったが…

 

曲の終わりで、再びバフチャール・アリ詩の一節が、英語で朗読される。

 

「この街は、他の現実の都市や想像の都市と比較することもできない世界で唯一の想像上の都市。世界を意識しない幸福。そのような都市は、現実にも想像の中にも存在しない」

 

3 この世界に(日本語)

 

歌詞はアイヌ伝承の子守唄「60のゆりかご」の日本語訳。伝統音楽の要素は用いない。これまでのユーラシアンオペラ作品でも、韓国やロシアの歌手が日本語で歌ってきた。

 

「この世界に 世界の上に 降ってきて

そこから 生まれるのが眠りというものです

あなたはそれを聞きたくて啼いているのですから

私が聞かせてあげますよ そう歌うんだと

眠りのお舟が 降りたぞ 降りたぞ」

 

日本語を解さない歌手が日本語で歌う曲がいくつかある。民族間で言語や文字を奪いあい、強制してきた歴史も踏まえる必要がある。しかし、異国語の中には母語の痕跡が残り、意味を超えた響きが、民族性の差異を超える新たな魂を音楽に宿すことができるかもしれない。

 眠ればすぐにアルメニア民謡(日本語〜ロシア語=日本語)

 

 アカペラと朗読。歌詞は、日本語で書き続ける在日朝鮮人の詩人金時鐘とチュヴァシ族出身の詩人ゲンナジイ・アイギのロシア語詩をミックスしたもの。

 

 途中、ウクライナ出身の歌手アーニャ・チャイコフスカヤによる朗読音声でロシアの詩人マンデリシュタームの詩「アルメニア 詩篇」が挿入される。ギターと打楽器によるアルメニア民謡が重なり、その中で詩の日本語訳も語られる。

 

 ロシアウクライナ間の戦争により、本上演に参加できなくなったチャイコフスカヤは、ロシア人の夫、娘とともに、戦争を避け、モスクワからコーカサス、ジョージアのトビリシに移住し、現在はモンテネグロの小さな街に一時的に暮らしている。録音音声とともにモンテネグロの秋の虫の音もうっすらと聴こえてくる。

 5 アリエル(英語)

 

フランス出身の小説家ル・クレジオの童話的短編集「海をみたことがなかった少年」で少女リュラビー(子守唄の意味)が口ずさむ架空の子守唄の歌詞に作曲。途中でコーラスが半音ずつ上がってゆく。

 

「蜜蜂の吸う蜜を吸い、桜の花に寝そべり、ふくろうの声を聴き、蝙蝠の背中に乗り、夏の後を追いながら、楽しい時を過ごし、花を仰ぎましょう」

 

6 北斗七星(韓国語)クルド人たちが(日本語)

 

 韓国の古典歌曲の独唱から始まり、ロシアの詩の翻訳を能の謡いで重なる。コーラスでは台湾原住民ブヌンなどの山岳原住民が歌う固有の合唱の再現を試みた。

 

「北斗七星」は女性が星を数えながら愛する人と別れるときの名残惜しい気持ちを表している。

 舞と謡であらわされるロシアの詩人マンデリシュタームの1930年に書かれた「アルメニア詩篇」のなかの、クルド人が描写される。詩人はポーランド生まれのユダヤ。その繊細な詩的言語にはスターリン批判も含まれ、ヴォロネジの収容所に強制移送され亡くなった。その間半年のあいだ暮らした家がモスクワにある。その痕跡を伝える石碑が、チャイコフスカヤの家族がこの戦争まで暮らしていたアパートの裏にあった。

 

「ああ赤紫色の御影石が音を立て/百姓の仔馬がよろよろと歩いて行く/国家の響きわたる石の/磨きぬかれた台石の上によじ登って。/その後をチーズの包みを持った/クルド人たちが息を切らしながら走って行く/各々に半分ずつ与えて悪魔と神を和解させたのだ」(鈴木正美訳)

7 子守唄重唱

 

韓国、台湾、クルド(*東京公演は録音)、ウクライナ(録音音源) ,,,それぞれの子守唄が小さな声で重なり合う。その背景では、<前半>の「10」で韓国語の原詩で歌われた詩が、日本語で朗読され、クルドで主に女性につけられるファーストネームが連呼され響き渡る。

8 魂遠くに(日本語)

 

音楽詩劇研究所のユーラシアン・オペラ作品「Continental Isolation」で歌われたアリアの一つ。

 

「魂遠くに去りし人よ 闇夜を恐れることはない/ここには火の光があり あなたの行く手を照らすだろう/魂遠くに去りし人よ もう家族に気を遣わなくともよい/そこには星や天の川や雲や月がある/あなたの到来を歌い寿ぐだろう」 


 

コンサート「ユーラシアン・ボイス 南ロシアの風 feat. Anna Pinguina」プログラム・曲紹介

2022年11月5@中目黒 楽屋

アンナ・ピンギナ(歌)小沢あき(ギター)河崎純(コントラバス)立岩潤三(パーカッション)

Anna Pingina(vo) Aki Ozawa(guit) Jun Kawasaki(cb) Junzo Tateiwa(ds,per) 

 

 アンナ・ピンギナが本日歌う、各曲の歌詞の一節を紹介します。しかし残念ながら、私はほとんどロシア語ができず、アンナが訳してくれた英語や、いくつかの翻訳ソフトも頼りに翻訳しました。彼女のロシアでのコンサートやテレビの動画をパソコンで見ると、熱狂的な大観衆の姿を多くみます。彼女の圧倒的な歌唱力がその熱狂のなによりの理由でしょう。しかし難解とも言える歌詞を知ると、そのことがとても不思議に思えます。日本ではこのような哲学的な歌詞に多くの人々が共感することはないからです。ロシア人は詩を大切にしてきた人々です。

 

 私たち音楽詩劇研究所は、これまでにロシアやタタール、ブリヤート、ウクライナ、アルメニア、カザフスタン…広い大地に暮きるアーチストとコラボレーションを行ってきました。そのロシアとウクライナが戦争状態にあります。世界中の多くの人々にとって、それはあり得ない奇妙なことであり、深い事情を知ることのできない日本の地では、その気持ちがさらに強くなるでしょう。それどころか日本では、両国民を無条件に非難し、嘲笑する浅薄な声さえ聞こえてくることがあります。国家単位でしか判断しないそのような思考こそが、世界を自らの手で滅ぼすことに導くように思えます。

 

 歌詞に込められた難しい比喩を、私は知ることはできません。しかしそのメタファーに、ロシアの人々の精神世界があらわされるのでしょう。その源泉であるこの土地のフォークロアをアンナ・ピンギナは吸収し、独自の表現で表します。枯野の平原が雪に覆われる。そこを一人で歩む人々の孤独や憂愁。ようやく茂りはじめた若草から匂い立つような声。そこから生まれる旋律から、私は人々の精神に触れ、深みを少しでも知りたいと思い、本日のコンサートを企画しました。

 

 珠玉の12曲に、ご期待ください。いつか、これらの歌詞がきちんと翻訳され、彼女の歌声とともに、ロシア、ユーラシアの大地に生きる人々の深淵な精神、多様な心のありようが、日本で広く紹介されることを願います。

 

Thank you for coming the concert. Here are some verses from the lyrics of each song that Anna Pingina will sing today.Unfortunately I understand very little Russian, so I relied on Anna's translation into English and on some translation machines,too. When I watch her concerts and TV show in Russia on internet, I watched many enthusiastic crowds. Her tremendous vocalability is probably the best reason for enthusiasm. But when I get to know the lyrics, which can be difficult to understand, it seems a little strange. Because In Japan, many people can’t sympathize with such philosophical lyrics.

 

The Russians are a people who have always valued poetry. We, the Music and Poetic Drama Laboratory have collaborated with artists from Russia, Tatar, Buryat, Ukraine, Armenia, Kazakhstan.... Now, Russia and Ukraine are at war with each other. For many people around the world, this is an impossible to understand this situation. And the feeling is even stronger in Japan. Because people can't understand the deeper circumstances of the situation. So, in Japan, I sometime heard shallow thoughts for the people of Russia and Ukraine. And in Japan, I hear shallow voices unconditionally condemning and ridiculing both peoples. However, I think that such thinking and judges on the nationalism leads own destruction of the world. Of course, I cannot know all the deep metaphors contained in her lyrics. But the spiritual landscapes of the Russian people are expressed in the metaphors. Anna Pingina absorbs the rich folklores of the land, the source of the landscape. And she expresses it in her own ways.

 

In a dry plains of dray grass are gradually covering with white snow. A person is walking alone there with loneliness and melancholy. From the young spring grass, I hear her voice from smell from the young grass. I hope to touch their spirit and glimpse into their depths from the melodies that emerge from them will touch the spirit of the people and glimpse their depths.

 

Please look forward to 12 wonderful songs. I hope someday these lyrics will be properly translated. And the diversity of their spirits of the Russia and Eurasian people will be widely introduced in Japan with her brilliant voice.     河崎純(音楽詩劇研究所)/ Jun Kawasaki

 < 1st >

 

1. ВОЛОГОДСКАЯ ヴォログダへの道

 

モスクワから北に500キロ。ヴォログダは白夜でも知られる歴史的な街。イヴァン雷帝の命で、当時のロシアでは最も大きな聖

堂の一つ聖ソフィア大聖堂が1570年に建てられた。

「自生地、古代。草原、そして森。/色-白樺の樹皮、精神-針葉樹

あなたは道、あなたはヴォログダへの道、私の…

青い川、白い湖。千のクロスティー、百の馬車…/雪のような、緑の草/あなたは道、あなたはヴォログダへの道、

私の…」

 

2. МАЯК 灯台

 

孤独な男についての歌。

「夜、彼は灯台になる。/雪だるまのように山を転がり落ちる/トナカイの苔にそってまっすぐに波打ち際へ…

300 年もの間、ずっとそうしてきた。死んだ海賊には舵もなく帆もない 、心もない、目もない、平和もない、

船もない。/呪い、まちがいなく永遠に繰り返させる時間/どうすれば許されるのか、自分が土地に受け入れら

れるのか、彼は夢想するが…」

 

3. Vizur Vatsenda Rosu (Irish)

 

4. НА ТОЙ СТОРОНЕ 向こう側にで

 

第二次大戦時の映画「静かな日の出」より

「私の上には空だけ/信じているのは風だけ/私は静寂の中で歌う/夜明けの子守唄…向こう側で/歌が歌われる/もう

私たちを/誰も待ってはくれない」

 

5. ВСЕ ПОЗАДИ 全てが終わった

老夫と老婆が語らっている。

「アダムは主に尋ねた(私を許してください)…主は答えて曰く-今、すべてが終わった

「すべては孤独な窓辺で、/太陽が深く輝く見慣れた青空に/鳥は留まらなかった/人生はうまくいかなかったのだ/

雪が桜の花びらを覆う/それはまったき正統性のもとに、われわれに近づくことはなかった」

 

6. Мой ветер 私の風

 

朝霧の風が、ミントの香りを運ぶ。

「長い旅路が私を待っていた/日毎、年毎に…

でも私の歌詞はいつもあなたのメロディーで暖かくなった あなたが私の中に残した暖かい火で/あなたは私のも

の /あなたの手が肩に触れている/あなたがそばにいれば、なにも怖くない/どうしたら君のことを呼べる?私の風/

どうしたらあなたの名を思い出せる?私の愛しい人よ」

 

< 2nd >

 

7. КЛЕВЕР クローバー

 

「私の真の心は何?/あなたなしには ただの冷たい太陽/お願い、失わないでね/このクローバーの葉っぱを」

 

8. Мальчоночка 少年よ

 

革命、二つの世界大戦… 両性愛の恋を過ごしながら苛烈な時代に濃密な生を送ったマリーナ・ツヴェターエワ。いまでもロシア

で最も人気のある女性詩人が10代に書いた神話のような愛の詩。

「私は雲のように白くなった/ 白い埋葬の布を取り出す/黒馬を追い払うべからず/司祭に飲み物を与えないで/私を

リンゴの木の下に置き去った/祈りもなく、乳香を焚くこともなく」

「大聖堂の鐘が鳴り響くと/悪魔が私を引きずり出す/あなたと酒を酌み交わした時言ったように/主に同じ言葉を繰

り返すだろう/愛していた。少年よ、栄光よりも、太陽よりも...」

 

9. Вербы 柳

 

「柳の枝が伸びている/私たちを見捨てないで/柳を殺すべからず/私たちを見捨てないで/袖付きのレースで私

を抱きしめて/緑色の唇でそう言った...太陽は遠くに/北の方から寒さがやってくる/私たちを置き去らないで/

お前無しでは無理なのだ」

 

10. Ласточка 燕

 

「胸が苦しい/燕よ、空から何が見えるか教えておくれ/結婚式の行列が近づいているに違いない/私の不実な愛…私

はあなたの喜びの歌、その木霊になるわ/燕よ、あなたのように二本の細い尾ひれをつけて/私を連れてって! あ

なたの黒い影として/でも私は生きている!」

 

11. ГОЛУБИ 鳩

 

14世紀頃の霊歌をもとに作られた曲。

「あなたの白い身体は何世紀も土の中に横たわる/私の魂は、長い路を歩んでいる/遠くへ行くには、運ぶことが大

変/罪は重すぎる/永遠に終わらない苦悩」

 

12. Кони お馬さん

 

ピンギナの故郷、コーカサス、黒海を背にした南ロシアの草原の風景。

「彼らは幸福を餌にしている/馬は赤と白のたてがみを持っている/ああ、なんて美しいの!!!私の記憶の奥底か

ら、涙を誘う…。」


音楽詩劇研究所 ユーラシアンオペラ2022  関連公演 記録写真


■ 音nityフェスin 埼玉・東京

<音nity フェス>

 

世界各地の伝統芸能の現在を、埼玉県蕨市で紹介してきたライブイベントシリーズ「音nity」(各回のダイジェスト映像)。フェス形式で催す今回は、これまでの出演者が埼玉・東京の各会場に集合。斬新な表現の組み合わせが生む祝祭空間に、ダンサーも彩りを加え、世界の多様性を体現する。埼玉会場では世界の打楽器が響き合い、在日クルド人ユニットとのセッションも予定される。東京会場では、日本、韓国、台湾、トルコ、トゥバ、イランなどの伝統的な歌唱法が混ざり合って声の森が生まれる。

・in 埼玉 11/12 (撮影:mikomex)

 

会場:アプリュス 芝スタジオ

チェ・ジェチョル(韓国打楽器)立岩潤三(中東打楽器)大野慎矢(ガイダ)松本ちはや(縄文打楽器)林家彦三(落語)音楽詩劇研究所 + エリ・リャオ + Denge Jine Japan  

 

*プレイベント「春香伝」なみ(朗読)/チェ・ジェチョル(韓国打楽器)

PV:編集三行英登 (埼玉県蕨市で2022年3月〜10月に行った音楽イベント「音nityin Third Warabi」より)

 ・in 東京 11/28

 

会場:SHIBAURA HOUSE

 

柳家小春(三味線・唄)今村よしこ(ダンス)ジー・ミナ(歌)清水博志(打楽器)河崎純(コントラバス)吉松章(謡・舞)エリ・リャオ(歌・蛇皮線)徳久ウィリアム(声)FUJI(サズ)  


(デザイン:三行英登)
(デザイン:三行英登)

響き合う東アジアの歌声盛岡公演 

12月3日 会場:もりおか町家物語館 浜藤ホール 

 

韓国から伝統音楽の歌手ジー・ミナを招き、「春香伝」など韓国の物語をもとにつくられる演劇的なコンサート。たった数行の詩を10分以上かけて歌う「正歌」の歌唱法で、古い説話の登場人物たちや民衆の魂を現代に蘇らせる。さらに本作では、台湾原住民の民謡を歌う歌手エリ・リャオ、韓国太鼓で東北をはじめ日本各地の郷土芸能とアジアの芸能をつなぐ在日コリアン三世のチェ・ジェチョル、現代的に能や狂言を表現する吉松章をフィーチャー。「東の地中海」とも呼ばれる東シナ海周辺の知られざる文化交流を、音楽・舞踊を通じて再構成する。

 

ジー・ミナ(歌)エリ・リャオ(歌)チェ・ジェチョル(韓国打楽器)吉松章(謡・舞)坪井聡志(歌)小沢あき(ギター)河崎純(コントラバス)三浦宏予(ダンス)亞弥(舞踏)


(デザイン:三行英登)
(デザイン:三行英登)

「 Incredible Sound Vision from Tokyo」

12月5日 会場:トーキョーコンサーツ・ラボ 

 

コントラバス奏者河崎純、“ハイパー箏奏者”八木美知依、歌手のジー・ミナ、エリ・リャオ。4人から成る新たな四重奏団のコンサートに、伝説的存在の音楽家・ピアニスト千野秀一(ベルリン在住)も特別参加する。エリは台湾原住民の民謡のエッセンスを自在に表現し、韓国国楽「正歌」歌手であるミナは、たった数行の詩を10分以上かけて格調高く歌い上げる、その伝統的な歌唱法を披露。即興演奏も交え、斬新なサウンドビジョンを創出する。

 

河崎純(コントラバス)八木美知依(箏)ジー・ミナ(歌)エリ・リャオ(歌)

スペシャルゲスト:千野秀一(ピアノ)

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