Biologia Music   Jun Kawasaki
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08/31/2020

慶應大学アート・ベースド・リサーチでの活動が本になりました

プロジェクトのために作曲した楽譜や、サンプル音源へのリンクも掲載されています。

 

アート・ライフ・社会学―エンパワーするアートベース・リサーチ

岡原 正幸【編著】

 

価格 ¥4,840(本体¥4,400)

晃洋書房

 

プロジェクトのために書いた覚え書きを再掲載します。

 

音源はこちらでもお聴きいただけます。

 

きおく歌の作曲まで  河崎純

 

 慶應大学岡原正幸研究室アートベースリサーチ、アートと社会学の境界をなくすABRのアウトリーチの一環として、千葉県市原市の里山の旅館の82歳になる女将の語りから、パフォーマンス作品を作り、日本演劇学会全国大会でも発表されました。女将さんの語りの内容だけでなく口癖や、イントネーションも参考に旋律をつくり、女将さんのご自身の朗読も録音させていただき、音源を作成しました。ライフソングとは、かんたんにいってしまえば、「人生」の歌です。

 

この作業ほど、歌を「作る」と いうことの難しさや不可能性を感じたことはありませんでした。録音したおかみさんの語りを何度も繰り返し聴きながら、そこに浮かび上がる声をトレースしなが ら、歌詞を作る、旋律を作る、歌手が録音する。女将さんの82年の生涯を歌にして作曲し、ご本人とご家族にもお届けしました。

 

「淋しくないのがいい」、「今の音楽がいい」、「がちゃがちゃしていない」これが女将さんのリクエスト。 賑やかし頃の回想、戦前戦中の子供の頃女将さん、女将さんとお客さんとの交流、女将さんの旅館に対するる思いとこれから、の四曲組曲でつくりました. おかみさんのライフストーリーを元に作詞、作曲した組曲「大津屋きおくうた」を軸に構成しました。

 

作曲から音源構成までおかみさん への膨大なインタビュー音源を覚えるほど聞込みました。わたしもインタビューに同行しました。作曲し、インタビュー音源をコンピュータによみこんで解体して構成、ループしていると、ちょっとコンピューターで音質を変化させるだけで、生や死を想起させかたが生まれ、さまざまな連想を生みなにか罪悪感とともに、ほんとうにさまざまな情緒がわき起こります。歌の作成以外に、慶應大学のアートベースリサーチのパフォーマンス作品のために、サウンドスケープや女将さんへのインタビュー音源をコラージュしたサウンドアート作品もつくっています。たとえば女将さんが探し出した昔の写真をみながら懐かしんでいる声をコラージュする作業もありました。温かい人柄のおかみさん。その声。そしてその声 をヘッドフォンで聴き続けていると自分のなかのさまざまな感情にアクセスしてしまい、気がおかしくなってしまいそうでした。アートベースリサーチの研究生の粘り強いインタビューがあったので、ただの女将さんの人生のさまざな転機の羅列や、その喜怒哀楽だけではなく、日常も想像しながら作ることが出来たのだと思います。

 

  女将さんがただ昔を懐かしむだけでなく、女将さん自身の人生のこれまでとこれからの人生を肯定できるようなような歌。できあがった歌を届けにいきました。とてもよろこんでいただけました。いままでいろんな音楽、歌をつくってきましたが、これまでで一番嬉しかったですし、一緒に聴いたのですがこれほど緊張する「納品」もありませんでした。地域の集まりや、会うことの少ない家族にも早く聴かせたいとおっしゃっていました。息子さんは著作権のことを気になされていましたが、まったく問題ありません。音楽や歌を 「創作」して「伝達」するという原理のようなものも感じます。そうしてゆっくり歌い継がれる家族や地域に歌は、私たちの暮らしの中にある、歌、音楽のあり方の一つかもしれないと思いました。 歌ってもよいし、ときどき記念日などに聴くだけでもよい。故人を偲ぶこともあるかもしれない。そんなふうに暮らしの中に、家族の歌がある、ということはとても豊かなことだと思います。「かんたん」ではない仕事ですが、やりがいの大きな仕事です。

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